まちづくり

江の島のまちづくり

神奈川県藤沢市 / 1986〜1993年
地区計画策定・景観条例基準・道路基本計画・サイン基本設計に担当者として参加

江の島は古くは宗教の地として、近年は近郊型の観光地として栄えてきました。1980年代に入り、植物園や土産物店などの観光資産や、道路などのインフラの老朽化により、観光地としての魅力低下が進行してきました。また、島の内部へのマンション建設計画などが持ち上がっており、観光地としての存続が危機的な状況となりました。

藤沢市では、このような状況を改善するために、土地利用の純化、インフラの再整備・景観の魅力づくり・集客核施設の細微、などを盛り込んだ総合的な江の島地区整備計画を策定し島全体を再生するプロジェクトを立ち上げました。 このプロジェクトは計画づくりに約8年の歳月を要しましたが、その全てにおいて携わらせていただきました。

また、最も重要な要素として、島の関係者の皆さんの勇気とやる気を高める必要がありました。このため、全ての計画づくりは島の皆さんとの丁寧な協働作業により進めていきました。

大学を出て初めての仕事が、この仕事だったことは私にとって非常に幸運でした。私のキャリアの原点とも言える仕事となりました。

◆基礎調査

江の島の総合的な島の活性化方策である「江の島地区整備計画」の目標と実現化方法を定めるために、江の島の6つの魅力を探し出し、課題と抽出する基礎調査を行いました。

当時はまだ大学を出たばかりで偉そうなことは言えませんでしたが・・・専門家としての視点で洗い出したデータをもとに、島と皆さんと意見交換を行い調査内容の精度を高めていきました。さらに、島の皆さんに関心をもっていただくため、検討された内容をニュースとしてまとめ全戸配布しました。基礎調査の段階で、市民と行政の島おこしの方向性を一致させるため、話し合いと情報公開は非常に大切なプロセスであると考えたためです。 このため、8年間で意見交換会は約80回、ニュース配布は40回を数えました。

江の島の6つの魅力と課題

島の皆さんといろいろ考えて「講・街・湊・史・緑・海」という、江の島には6つの魅力があり、魅力のそれぞれに課題があることを共有することができました。

◆地区計画と景観基準づくり

江の島にふさわしくない土地利用を規制し、江の島の景観や環境の魅力を高めるために、建物づくりのルールを定めました。

地区計画

リゾートマンション対策として、地区計画をつくり都市計画を決定しました。マンション開発が過度に進行し、島の都市機能やイメージの低下を防ぐためです。

景観基準の策定

島の景観をより魅力的にするため、景観条例に基づく基準を定めました。

基準を定めた1991年より5年間で、約100の建築物が景観に配慮した修景を行った。(左青塗箇所)

自然と歴史の島にふさわしい景観がつくられはじめた。

◆道路・橋梁・サインなど公共空間のデザイン

島の皆さんの日常生活を快適にするための都市インフラを整備しました。また、道路や橋梁などが観光地の魅力となるよう、江の島のデザインコードをつくり設計しました。

サインの整備

インフラ整備に伴って、わかりにくいと言われていた島の道案内を充実するプロジェクトに携わりました。道路などと同様に島の自然や歴史環境に調和するようデザインに配慮し、また厳しい気候条件に配慮した素材を用いました。

◆エイジングへの配慮

時間を経るごとに味わいを増ようにしたかったため、素材の選定には特に配慮しました。

◆道路の整備

観光客で賑わう参道は、さらなる観光客の増加を見込んで1.2ⅿ拡幅しました。店舗を目立たせるように控えめなデザインとしました。急勾配の坂道のため、大雨の時は建物に水が入って困っていました。このため長崎のオランダ坂の排水方法を真似るなどして特に配慮しました。歩く魅力を高めるために、ところどころに眺望点などの整備を行いました。

この参道は生活道路でもあります。賛否両論ありましたが、山の上に物資を運ぶため車の進入ができるようにしました。また道路整備と同時にガス管を整備しました。2つのインフラ整備により山の上の物価が下がり商売がしやすくなったそうです。

◆サミュエルコッキング苑を中心とした島の魅力づくりの計画

江の島の総合的な島おこしの中核となるサミュエルコッキング苑(植物園)・展望台と岩屋洞窟のリニューアルプロジェクトに携わりました。植物園の史跡としての価値についても調査の中でみつけていきました。この調査の中で、島の皆さんからお聞きしたサミュエルコッキング邸の存在を明らかにするため発掘を行い、現在のサミュエルコッキング苑の整備に至りました。

展望灯台のリニューアル

江の島の見晴らしの魅力を象徴する施設でしたが、老朽化がひどく島の皆さん・管理者の双方からリニューアルの必要が指摘されていました。再整備の事業費捻出手法なども含め計画づくりに携わりました。

岩屋洞窟

崩落事故で閉鎖されていた岩屋洞窟の再開は、島の人々の悲願となっていました。再開に向けた展示の可能性や事業費算出などに携わりました。

江の島の回遊計画

江の島の観光メインは、サミュエルコッキング苑や展望灯台と岩屋洞窟です。しかし、その他にも見逃されている魅力的な場所が多数存在しています。これらの魅力にも光をあてて総合的な魅力づくりを計画しました。立体的に存在する眺望点や、曲がりくねりのシークエンスなどの重要性が、後の設計者に伝わるようにプレゼンテーションに気を配りました。